油圧シリンダの速度計算|流量・内径・ロッド径から伸び速度と戻り速度を求める方法

油圧シリンダと流量・内径・ロッド径の関係、および伸び側と戻り側の速度差を示した技術イラスト

油圧シリンダの速度は、基本的に「シリンダへ供給される流量」と「油が流入する側の有効受圧面積」で決まります。

基本式は、v=QAv=\frac{Q}{A}

です。

ここで、

  • vv:シリンダ速度
  • QQ:シリンダへ供給される体積流量
  • AA:有効受圧面積

を表します。

式そのものは単純ですが、実務では単位換算、ロッド側とキャップ側の面積差、ポンプ実流量、バルブの流量特性、負荷による圧力変化などを考慮する必要があります。

特に片ロッドシリンダでは、同じ流量を供給しても伸び側と戻り側で速度が異なります。

この記事では、油圧シリンダの速度計算を基本原理から具体例、実際の油圧回路設計での注意点まで解説します。

目次

油圧シリンダの速度は流量÷面積で決まる

シリンダ内へ一定時間に流入した油の体積を考えます。

ピストンが距離 LL だけ移動したとき、シリンダ内へ流入する油量 VV は、V=ALV=AL

です。

これを時間 tt で割ると、Vt=ALt\frac{V}{t} = A\frac{L}{t}

となります。

ここで、Q=VtQ=\frac{V}{t}

および、v=Ltv=\frac{L}{t}

なので、Q=AvQ=Av

となります。

したがって、v=QAv=\frac{Q}{A}

です。

これが油圧シリンダ速度計算の基本式です。

シリンダ内径が大きいほど同じ流量では遅くなる

基本式、v=QAv=\frac{Q}{A}

から分かるように、流量が同じなら受圧面積が大きいほど速度は遅くなります。

逆に、受圧面積が小さければ速度は速くなります。

これは油圧シリンダ設計で非常に重要な関係です。

シリンダ径を大きくすると、F=pAF=pA

によって発生推力は増加します。

一方、v=QAv=\frac{Q}{A}

によって速度は低下します。

つまり同じ圧力・流量なら、シリンダ径を大きくすると「力は大きく、速度は遅くなる」という関係があります。

油圧シリンダは推力だけで選定するのではなく、必要速度と必要流量を同時に検討する必要があります。

片ロッドシリンダの伸び側速度

一般的な片ロッドシリンダを考えます。

シリンダ内径を DD とすると、キャップ側の受圧面積 A1A_1 は、A1=πD24A_1=\frac{\pi D^2}{4}

です。

キャップ側へ流量 QQ を供給したときの伸び速度 v1v_1 は、v1=QA1v_1=\frac{Q}{A_1}

となります。

したがって、v1=4QπD2v_1= \frac{4Q}{\pi D^2}

です。

片ロッドシリンダの戻り側速度

ロッド側では、ピストン面積からロッド断面積を差し引く必要があります。

ロッド径を dd とすると、ロッド断面積は、Ar=πd24A_r=\frac{\pi d^2}{4}

です。

したがって、ロッド側の有効面積 A2A_2 は、A2=A1−ArA_2=A_1-A_r

すなわち、A2=π4(D2−d2)A_2= \frac{\pi}{4}(D^2-d^2)

となります。

戻り側へ流量 QQ を供給した場合の速度は、v2=QA2v_2=\frac{Q}{A_2}

です。

片ロッドシリンダでは、A2<A1A_2<A_1

なので、供給流量が同じなら、v2>v1v_2>v_1

となります。

つまり通常の片ロッドシリンダは、同じ流量なら伸びるときより戻るときのほうが速く動きます。

L/minとmm²から速度を求める

実務では、

  • 流量:L/min
  • シリンダ径:mm
  • 速度:mm/s

を使うことが多くあります。

そのため、単位換算を理解しておく必要があります。

1 Lは、1 L=1,000,000 mm31\ \mathrm{L}=1,000,000\ \mathrm{mm^3}

です。

また、1 min=60 s1\ \mathrm{min}=60\ \mathrm{s}

なので、流量 QQ[L/min]をmm³/sへ変換すると、Qmm3/s=QL/min×1,000,00060Q_{\mathrm{mm^3/s}} = Q_{\mathrm{L/min}} \times \frac{1,000,000}{60}

となります。

したがって速度は、v[mm/s]=Q[L/min]×1,000,00060A[mm2]v[\mathrm{mm/s}] = \frac{ Q[\mathrm{L/min}]\times1,000,000 }{ 60A[\mathrm{mm^2}] }

です。

整理すると、v[mm/s]=16666.7Q[L/min]A[mm2]v[\mathrm{mm/s}] = \frac{ 16666.7Q[\mathrm{L/min}] }{ A[\mathrm{mm^2}] }

となります。

計算例:内径50 mm、ロッド径30 mm、流量20 L/min

次の片ロッドシリンダを考えます。

項目値
シリンダ内径 DD50 mm
ロッド径 dd30 mm
供給流量 QQ20 L/min

伸び側の面積

キャップ側面積は、A1=π×5024A_1= \frac{\pi\times50^2}{4}

より、A1≈1963.5 mm2A_1\approx1963.5\ \mathrm{mm^2}

です。

流量20 L/minをmm³/sへ変換すると、Q=20×1,000,00060Q= 20\times\frac{1,000,000}{60}Q≈333333 mm3/sQ\approx333333\ \mathrm{mm^3/s}

となります。

したがって伸び速度は、v1=3333331963.5v_1= \frac{333333}{1963.5}

より、v1≈169.8 mm/sv_1\approx169.8\ \mathrm{mm/s}

です。

つまり、v1≈0.170 m/sv_1\approx0.170\ \mathrm{m/s}

となります。

戻り側の面積

ロッド断面積は、Ar=π×3024A_r= \frac{\pi\times30^2}{4}

より、Ar≈706.9 mm2A_r\approx706.9\ \mathrm{mm^2}

です。

ロッド側有効面積は、A2=1963.5−706.9A_2= 1963.5-706.9

より、A2≈1256.6 mm2A_2\approx1256.6\ \mathrm{mm^2}

となります。

したがって戻り速度は、v2=3333331256.6v_2= \frac{333333}{1256.6}

より、v2≈265.3 mm/sv_2\approx265.3\ \mathrm{mm/s}

です。

結果を比較すると、

動作速度
伸び約170 mm/s
戻り約265 mm/s

となります。

同じ20 L/minを供給しているにもかかわらず、戻り側のほうが約1.56倍速くなっています。

伸び速度と戻り速度の比率

同じ流量を供給する場合、v1=QA1v_1=\frac{Q}{A_1}v2=QA2v_2=\frac{Q}{A_2}

なので、速度比は、v2v1=A1A2\frac{v_2}{v_1} = \frac{A_1}{A_2}

となります。

片ロッドシリンダでは、この面積比から伸び速度と戻り速度の比を求めることができます。

これはシリンダ仕様を比較するときにも便利な関係です。

必要速度から必要流量を求める

実務では、「20 L/minで何mm/sになるか」よりも、「必要な速度を出すには何L/min必要か」を計算する場面も多くあります。

基本式、Q=AvQ=Av

を使用します。

例えば、

  • シリンダ内径:80 mm
  • 必要速度:100 mm/s

とします。

ピストン面積は、A=π×8024A= \frac{\pi\times80^2}{4}

より、A≈5026.5 mm2A\approx5026.5\ \mathrm{mm^2}

です。

必要流量は、Q=5026.5×100Q=5026.5\times100

より、Q=502650 mm3/sQ=502650\ \mathrm{mm^3/s}

です。

L/minへ換算すると、Q=502650×601,000,000Q= 502650 \times \frac{60}{1,000,000}

より、Q≈30.2 L/minQ\approx30.2\ \mathrm{L/min}

となります。

したがって、このシリンダを100 mm/sで伸ばすには、理論上約30.2 L/minが必要です。

ストローク時間を求める

シリンダ速度が分かれば、ストローク時間も計算できます。

ストロークを LL、速度を vv とすると、t=Lvt=\frac{L}{v}

です。

例えば、

  • ストローク:500 mm
  • 速度:100 mm/s

なら、t=500100=5 st=\frac{500}{100}=5\ \mathrm{s}

です。

往復動作を行う機械では、伸び側と戻り側の速度が異なるため、それぞれ別に計算します。

伸び時間:t1=Lv1t_1=\frac{L}{v_1}

戻り時間:t2=Lv2t_2=\frac{L}{v_2}

となります。

この計算は機械のサイクルタイムを見積もる際に重要です。

ポンプの公称流量と実流量は同じとは限らない

速度計算で注意したいのが、ポンプ流量です。

例えばカタログ上20 L/minのポンプを使用していても、実際にシリンダへ20 L/minが供給されるとは限りません。

ポンプでは内部漏れが発生するため、理論吐出量と実吐出量には差があります。

概念的には、Qactual=QtheoreticalηvQ_{\mathrm{actual}} = Q_{\mathrm{theoretical}}\eta_v

と表すことができます。

ここで ηv\eta_v は容積効率です。

また、実際のシステムでは、

  • ポンプ回転数
  • 使用圧力
  • 作動油粘度
  • 油温
  • ポンプ摩耗

などによって実流量が変化します。

精密な速度計算では、ポンプのカタログ値や性能曲線を確認する必要があります。

バルブもシリンダ速度に影響する

ポンプが十分な流量を吐出できても、途中のバルブがその流量を通せなければシリンダ速度は低下します。

例えば、

  • 方向切換弁
  • 流量調整弁
  • チェック弁
  • カウンターバランス弁
  • 比例弁

などには流量特性があります。

バルブを流れる油には圧力損失が発生し、その圧力損失は一般に流量とともに増加します。

そのため、シリンダ速度を設計するときはポンプ流量だけではなく、回路全体で必要流量を確保できるか確認する必要があります。

メータインとメータアウト

油圧シリンダの速度制御では、流量調整弁を使用することがあります。

代表的な方法が、

  • メータイン
  • メータアウト

です。

メータインはシリンダへ流入する油を絞る方法です。

メータアウトはシリンダから排出される油を絞る方法です。

同じ「流量を絞る」制御でも、負荷条件によって適切な方式が異なります。

特に負荷によってシリンダが勝手に走ろうとするオーバーランニング負荷では、単純なメータイン制御では速度を安定して制御できない場合があります。

戻り流量は供給流量と同じとは限らない

片ロッドシリンダでは、ピストンの両側で面積が異なります。

そのため、シリンダへ供給する流量と反対側から排出される流量は必ずしも同じではありません。

例えば伸び動作では、キャップ側へ流量 Q1Q_1 が供給されます。

シリンダ速度は、v=Q1A1v=\frac{Q_1}{A_1}

です。

ロッド側から排出される流量 Q2Q_2 は、Q2=A2vQ_2=A_2v

なので、Q2=Q1A2A1Q_2= Q_1\frac{A_2}{A_1}

となります。

逆に戻り動作では、ロッド側へ流入した油量よりキャップ側から排出される油量のほうが大きくなります。

この違いは、戻り配管やバルブの流量選定でも重要です。

配管径も確認する

シリンダ速度を上げるために流量を増やすと、配管内の流速も上昇します。

配管内流速は、u=QApipeu=\frac{Q}{A_{\mathrm{pipe}}}

で求められます。

流速が過大になると、

  • 圧力損失増加
  • 発熱
  • 騒音
  • 振動

などの原因になります。

したがって、「シリンダを速くしたいからポンプ流量を増やす」という変更だけでは不十分です。

流量を変更した場合は、

  • ポンプ
  • バルブ
  • 配管
  • フィルタ
  • クーラ

なども含めて回路全体を再確認する必要があります。

シリンダ速度には上限がある

計算上は流量を増やせば速度を高くできます。

しかし実際の油圧シリンダには使用可能な速度範囲があります。

高速化すると、

  • シール発熱
  • 潤滑状態の悪化
  • 衝撃
  • キャビテーション
  • 停止時のショック
  • クッション能力不足
  • 配管圧損増加

などの問題が発生する可能性があります。

最大使用速度はシリンダ形式やシール仕様によって異なるため、使用するメーカーの仕様を確認する必要があります。

低速でも問題が発生する

逆に、速度を極端に低くすればよいわけでもありません。

低速域ではシール摩擦などの影響によって、

スティックスリップ

が発生する場合があります。

これは停止と滑りを繰り返すような不安定な運動で、滑らかな低速動作が必要な機械では問題になります。

低速性能が重要な場合は、

  • シール仕様
  • シリンダ構造
  • 流量制御方式
  • 作動油
  • 負荷条件

なども考慮します。

油圧シリンダ速度計算でよくある間違い

L/minをそのままmm²で割る

流量と面積の単位を統一しなければ正しい速度は求まりません。

L/minとmm²を使用する場合は、v[mm/s]=Q[L/min]×1,000,00060A[mm2]v[\mathrm{mm/s}] = \frac{ Q[\mathrm{L/min}]\times1,000,000 }{ 60A[\mathrm{mm^2}] }

のように換算します。

伸び側と戻り側を同じ面積で計算する

片ロッドシリンダでは、A1≠A2A_1\neq A_2

です。

そのため、同じ流量でも伸び速度と戻り速度は異なります。

ポンプ流量だけを見る

実際にはバルブ、配管、フィルタなどにも流量制限があります。

シリンダ速度は回路全体で評価する必要があります。

戻り側流量を見落とす

片ロッドシリンダでは、供給流量と排出流量が異なる場合があります。

特に高速戻りではキャップ側から大きな流量が排出されるため、バルブや戻り配管の容量確認が重要です。

シリンダ選定では推力と速度をセットで考える

油圧シリンダ設計では、F=pAF=pA

と、Q=AvQ=Av

をセットで考えることが基本です。

面積 AA を大きくすると、F=pAF=pA

によって推力は増加します。

しかし、v=QAv=\frac{Q}{A}

なので、同じ流量では速度が低下します。

したがってシリンダ径を決める際には、

  • 必要推力
  • 使用圧力
  • 必要速度
  • 必要流量
  • ストローク時間

を同時に評価する必要があります。

まとめ

油圧シリンダの速度計算の基本式は、v=QAv=\frac{Q}{A}

です。

必要流量を求める場合は、Q=AvQ=Av

となります。

片ロッドシリンダではキャップ側とロッド側で有効面積が異なるため、同じ流量を供給しても伸び速度と戻り速度は異なります。

また、実際の設計では理論計算だけではなく、

  • ポンプ実流量
  • バルブ流量特性
  • 配管径
  • 圧力損失
  • 戻り流量
  • 負荷条件
  • シリンダ許容速度
  • 低速時のスティックスリップ

などを確認する必要があります。

油圧シリンダについて、F=pAF=pA

と、Q=AvQ=Av

の二つを理解すると、「必要な力」「必要な速度」「必要な流量」「必要なシリンダ径」を相互に計算できるようになります。

この関係は油圧シリンダ選定だけでなく、ポンプ容量、バルブ容量、配管径、サイクルタイムを決める基礎となります。

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この記事を書いた人

機械設計・油圧・CAD・Python・AIなど、ものづくりに関わる技術を扱っています。工学知識を整理・構造化し、設計や自動化に再利用できる形へ変えていくことを目指しています。

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