油圧回路の定常圧力がリリーフ弁の設定値以下でも、方向制御弁や遮断弁を急に閉じると、一時的な圧力ピークが発生することがあります。
流れている作動油には運動量があります。流速を短時間で変えると、その変化は配管内を圧力波として伝わります。この過渡現象が圧力サージ、油撃、液柱分離を伴う場合を含めて広くウォーターハンマーと呼ばれる現象です。
圧力サージの一次評価でよく使われるのがJoukowsky式です。\[ \Delta p = \rho a \left|\Delta v\right| \]
式は簡潔ですが、入力する流速変化と波速の意味、弁閉鎖時間による適用範囲、配管分岐やキャビテーションによる限界を理解しなければ、最大圧力を見誤る可能性があります。
この記事では、油圧配管を対象にJoukowsky式、配管弾性を含む波速、圧力波の往復時間を整理し、計算例とPython実装まで示します。
圧力サージは定常圧力へ重なる
Joukowsky式で求めるのは、流速変化によって生じる圧力変化です。急閉止によって正のサージが生じる側では、概算最大圧力を次のように考えます。\[ p_{max} \approx p_0 + \Delta p \]
ここで、
- $p_0$:サージ発生直前の局所圧力
- $\Delta p$:流速変化による圧力上昇
- $p_{max}$:一次評価による最大圧力
です。
リリーフ設定圧力を$p_0$へ無条件に代入するのではなく、イベント直前にその配管位置で成立していた圧力を使います。ポンプ出口、シリンダポート、弁の上流側では基準圧力が異なる可能性があります。
Joukowsky式で急閉止時の圧力変化を求める
Joukowsky式は次のとおりです。\[ \Delta p = \rho a \left|\Delta v\right| \]
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| Δp | 圧力変化 | Pa |
| ρ | 流体密度 | kg/m³ |
| a | 圧力波の伝播速度 | m/s |
| Δv | 管内平均流速の変化 | m/s |
弁の上流側で流速が$v_0$から0へ変わる完全閉止なら、流速変化の大きさは$v_0$です。\[ \left|\Delta v\right| = v_0 \]
完全に止まらない切替やバイパスがある場合は、閉止前後の流速差を使います。流量差ではなく流速差なので、配管内径も必要です。
流量$Q$と配管内径$D$から平均流速を求める式は、\[ v = \frac{4Q}{\pi D^2} \]
です。
波速は油の音速だけでは決まらない
圧力波の速度$a$は、作動油の圧縮性だけでなく配管壁の弾性にも影響されます。薄肉円管を単純化した近似の一例は次式です。\[ a = \sqrt{\frac{K/\rho}{1+KD/(Ee)}} \]
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| K | 流体の体積弾性率 | Pa |
| E | 配管材料の縦弾性係数 | Pa |
| D | 配管内径 | m |
| e | 配管肉厚 | m |
分母の$KD/(Ee)$が大きいほど配管壁が膨張しやすく、波速は低下します。鋼管とホースでは剛性が大きく異なるため、同じ作動油でも同じ波速にはなりません。
実際の波速には、配管の拘束条件、ポアソン比、継手、ホースの補強構造、混入空気、温度なども影響します。この式は初期検討用の単純化であり、使用部材の資料や実測値がある場合はそちらを優先します。
弁閉鎖時間と圧力波の往復時間を比較する
配管長を$L$とすると、圧力波が弁から境界まで進み、反射して戻る時間は、\[ t_r = \frac{2L}{a} \]
です。
弁の有効閉鎖時間を$T$とすると、HYDACの簡易式では次のように区別します。
- $T < t_r$:急閉止としてJoukowskyの最大圧力変化を使う
- $T > t_r$:反射波が閉止完了前に戻るため、閉鎖時間を考慮する
緩閉止側の簡易近似は、\[ \Delta p_T \approx \rho a \left|\Delta v\right|\frac{t_r}{T} \]
です。
ただし、実際の弁では開度と流量係数が線形に変化するとは限りません。「ストロークを半分閉じたから流量も半分」とは限らず、閉止終盤で流速が急変する弁もあります。正確な評価では、弁の開度時間特性と流量特性を過渡解析へ入れます。
計算例|15 mの鋼管を流れる作動油
計算方法を示すため、次の仮定条件を使います。材料値と作動油物性は実機の値ではなく例示値です。
| 項目 | 仮定値 |
|---|---|
| サージ直前圧力 | 14 MPa |
| 作動油密度 | 850 kg/m³ |
| 体積弾性率 | 1.4 GPa |
| 鋼管の縦弾性係数 | 210 GPa |
| 配管内径 | 20 mm |
| 配管肉厚 | 2 mm |
| 配管長 | 15 m |
| 閉止前流速 | 2.0 m/s |
波速を求める
\[ a = \sqrt{\frac{1.4\times10^9/850}{1+(1.4\times10^9\times0.020)/(210\times10^9\times0.002)}} \]
したがって、波速は約1,242 m/sです。
急閉止時の圧力上昇を求める
\[ \Delta p = 850\times1242\times2.0 \]\[ \Delta p \approx 2.11\times10^6\ \mathrm{Pa} \]
圧力上昇は約2.11 MPaです。直前圧力が14 MPaなら、単純加算による一次評価は、\[ p_{max} \approx 14+2.11=16.11\ \mathrm{MPa} \]
となります。
往復時間を求める
\[ t_r = \frac{2\times15}{1242}\approx0.0242\ \mathrm{s} \]
圧力波の往復時間は約24 msです。弁の有効閉鎖時間がこれより短ければ、急閉止側の評価になります。
たとえば閉鎖時間が0.10 sで、単純な緩閉止近似を適用できると仮定すると、\[ \Delta p_T \approx2.11\times\frac{0.0242}{0.10}\approx0.51\ \mathrm{MPa} \]
です。ただし、この0.51 MPaは閉鎖則を単純化した参考値であり、弁形式や回路構成を無視した保証値ではありません。
Pythonで圧力サージを計算する
波速、Joukowsky圧力変化、往復時間をまとめて計算します。
from math import pi, sqrt
def pressure_surge(
base_pressure_mpa: float,
flow_l_min: float,
density_kg_m3: float,
bulk_modulus_gpa: float,
pipe_modulus_gpa: float,
inner_diameter_mm: float,
wall_thickness_mm: float,
pipe_length_m: float,
final_velocity_m_s: float = 0.0,
) -> dict[str, float]:
if min(
density_kg_m3,
bulk_modulus_gpa,
pipe_modulus_gpa,
inner_diameter_mm,
wall_thickness_mm,
pipe_length_m,
) <= 0:
raise ValueError("material and pipe values must be > 0")
flow_m3_s = flow_l_min * 1e-3 / 60
diameter_m = inner_diameter_mm * 1e-3
thickness_m = wall_thickness_mm * 1e-3
area_m2 = pi * diameter_m**2 / 4
velocity_m_s = flow_m3_s / area_m2
bulk_pa = bulk_modulus_gpa * 1e9
pipe_modulus_pa = pipe_modulus_gpa * 1e9
compliance_factor = (
bulk_pa * diameter_m
/ (pipe_modulus_pa * thickness_m)
)
wave_speed_m_s = sqrt(
(bulk_pa / density_kg_m3)
/ (1 + compliance_factor)
)
delta_velocity = abs(
velocity_m_s - final_velocity_m_s
)
surge_pa = (
density_kg_m3
* wave_speed_m_s
* delta_velocity
)
surge_mpa = surge_pa / 1e6
return {
"velocity_m_s": velocity_m_s,
"wave_speed_m_s": wave_speed_m_s,
"reflection_time_s": (
2 * pipe_length_m / wave_speed_m_s
),
"surge_pressure_mpa": surge_mpa,
"estimated_peak_pressure_mpa": (
base_pressure_mpa + surge_mpa
),
}
流量から計算した流速と実測流速が異なる場合は、過渡イベント直前の実流速を優先します。ポンプ停止、逆止弁閉止、シリンダ停止では、どの液柱が何m/sから何m/sへ変化するかを回路ごとに定義します。
Joukowsky式を最大保証値にしない
Joukowsky式は、瞬間的な流速変化に対する有用な一次評価です。しかし、どの配管網でも必ず保守側になる式ではありません。
WaltersとLeishearは、次のような条件ではJoukowsky式を超える圧力が生じ得ると整理しています。
- ティーや閉止分岐で反射波が重なる
- 配管径、材料、肉厚が途中で変わる
- 長い配管や高粘度流体でline packが生じる
- 圧力低下で蒸気空洞が生じ、その後に崩壊する
油圧回路でも、複数の弁、アキュムレータ、ホース、シリンダ室、逆止弁、異径配管が存在すれば、単一の直管より反射条件が複雑になります。
したがって、Joukowsky式の結果は、一次スクリーニングとして使います。その後、危険な流速変化と閉鎖時間を特定し、分岐・反射・キャビテーションを含む過渡解析へ進み、最後に圧力計測で検証します。
圧力サージを抑える設計の方向
対策の基本は、流速変化を緩やかにするか、圧力波のエネルギーを吸収・逃がすことです。
- 弁の閉止時間と閉止特性を見直す
- ポンプ停止時の逆流と逆止弁閉止を確認する
- 急減速する液柱の流速を下げる
- サージ吸収用アキュムレータやダンパを発生源近くへ設ける
- 配管、継手、ホース、機器の許容圧力をピーク値と照合する
HYDACの資料でも、アキュムレータによるショック吸収とJoukowsky式による簡易評価が示されています。ただし、容量、予圧、接続抵抗は個別に選定します。
計算で起こりやすい失敗
流量をそのままJoukowsky式へ入れる。
式に入れるのは流速変化です。流量から配管断面積で換算します。
作動油の音速を波速として固定する。
配管壁、ホース、拘束条件、混入空気によって実効波速は変わります。
ソレノイドの電気応答時間を弁閉鎖時間とする。
必要なのは流量を変化させる油圧的な有効閉鎖時間です。
Joukowsky式を必ず最大値と考える。
分岐での反射、line pack、液柱分離後の空洞崩壊では、単純式を超える可能性があります。
まとめ
急な流速変化による油圧配管の圧力サージは、Joukowsky式で一次評価できます。\[ \Delta p = \rho a \left|\Delta v\right| \]
配管弾性を含む簡易波速は、\[ a = \sqrt{\frac{K/\rho}{1+KD/(Ee)}} \]
圧力波の往復時間は、\[ t_r = \frac{2L}{a} \]
です。
重要なのは、流速、波速、弁の有効閉鎖時間を同じ過渡イベントについて定義することです。さらに、基準圧力へサージ圧力を重ね、機器の許容圧力と比較します。
一方、Joukowsky式は複雑な配管網の最大圧力を保証する式ではありません。分岐、異径、ホース、アキュムレータ、逆止弁、キャビテーションを含む場合は、過渡解析と高速圧力計測へ進みます。
この計算をデータ化すれば、配管径・流量・物性・弁閉鎖時間からサージ危険度を判定し、詳細解析が必要な回路を自動抽出する設計チェックへ発展させられます。

