油圧回路を設計するとき、「圧力」と「流量」を別々の仕様として見るだけでは、システム全体の負荷を把握できません。
油圧で運ばれるエネルギーの速さ、つまり油圧動力は、圧力と流量の積から求められます。
SI基本単位では、Ph=ΔpQ
です。
ここで、
- Ph:油圧動力 [W]
- Δp:圧力差 [Pa]
- Q:体積流量 [m3/s]
を表します。
実務ではMPaとL/minを使うことが多いため、次の式が便利です。Ph[kW]=60Δp[MPa]×Q[L/min]
油研工業と東京計器の公式技術資料でも、この式が油圧ポンプの出力動力として示されています。
なぜ圧力と流量を掛けるのか
油圧動力の基本式は、Ph=ΔpQ
です。
圧力は、1 Pa=1 N/m2
です。
流量は、Q[m3/s]
なので、両者を掛けると、m2N×sm3=sNm
になります。
そして、1 W=1 Nm/s
なので、ΔpQ
は確かに動力になります。
つまり「圧力×流量」は単なる経験式ではなく、仕事率の単位へ直接つながる関係です。
MPaとL/minなら60で割る
実務用の式、Ph[kW]=60Δp[MPa]Q[L/min]
がなぜ成立するか、単位換算から確認します。
まず、1 MPa=106 Pa
です。
また、1 L=10−3 m3
なので、1 L/min=6010−3m3/s
です。
したがって、Ph=Δp×106×Q×6010−3
となります。
整理すると、Ph[W]=601000ΔpQ
です。
kWへ変換するため1000で割れば、Ph[kW]=60ΔpQ
となります。
この「60」は物理定数ではありません。MPa、L/min、kWという単位を組み合わせた結果として現れる換算係数です。
barを使う場合は600で割る
圧力をbarで扱う場合は、Ph[kW]=600Δp[bar]Q[L/min]
です。
Parkerの公式技術資料でも、この形式が示されています。
これは、1 MPa=10 bar
だからです。
たとえば、20 MPa=200 bar
なので、6020Q=600200Q
となり、どちらの単位系でも同じ動力になります。
計算例
圧力差が、Δp=20 MPa
流量が、Q=30 L/min
とします。
油圧動力は、Ph=6020×30
したがって、Ph=10 kW
です。
これは「20 MPaの圧力差を持つ流体が30 L/min流れているとき、その流体が運ぶ理想的な油圧動力が10 kW」という意味です。
ここで重要なのは、10 kW=モータ定格10 kWではないことです。
油圧動力とポンプ軸入力は違う
実際のポンプには損失があります。
ポンプの総合効率をηとすると、η=PsPh
なので、必要なポンプ軸入力は、Ps=ηPh
となります。
東京計器の技術資料でも、ポンプの油圧出力と軸入力は総合効率によって関係付けられています。
仮に先ほどの、Ph=10 kW
に対して、計算例として総合効率を、η=0.85
と仮定すると、Ps=0.8510Ps≈11.76 kW
です。
この0.85は説明用の仮定値であり、特定ポンプの仕様値ではありません。実設計ではメーカーの性能データを使用します。
電動機入力まで考える
ポンプを電動機で駆動する場合、さらにモータ効率があります。
モータ効率をηmとすれば、Pe=ηmPs
です。
したがってエネルギーの流れは、
電気入力
↓
電動機
↓
軸動力
↓
油圧ポンプ
↓
油圧動力
↓
アクチュエータ
と考えられます。
各段階に効率が存在するため、Pe>Ps>Ph
となるのが通常です。
油圧動力だけを計算してモータ容量をそのまま決めるのではなく、効率や運転条件を別途考慮する必要があります。
圧力には「圧力差」を使う
油圧動力式では、本質的には圧力そのものではなく対象機器の入口と出口の圧力差を使います。
たとえば油圧モータなら、Δp=pin−pout
です。
東京計器の油圧モータ計算式でも、入力動力は入口・出口間の圧力差と流量から求めています。
したがって、
ポンプ吐出圧力 = 20 MPa
という値だけを見て、すべての機器が20 MPa分の動力を消費すると考えてはいけません。
回路のどこに圧力差が発生しているかを見る必要があります。
バルブの圧力損失はそのまま動力損失になる
この考え方は、発熱計算にも直結します。
バルブの入口・出口で圧力差、Δpv
が生じ、そのバルブを流量Qが通過しているなら、Ploss=60ΔpvQ
で損失動力を求められます。
油研工業の公式資料にも、バルブ入口・出口間の圧力損失から動力損失を求める式が示されています。
たとえば説明用として、Δpv=2 MPaQ=30 L/min
なら、Ploss=602×30=1 kW
です。
この1 kWの機械的エネルギーは、最終的には主として熱へ変換されます。
したがって、
圧力損失
↓
損失動力
↓
発熱
↓
油温上昇
↓
冷却能力
という設計チェーンを作れます。
リリーフ弁で逃がす動力も計算できる
油圧回路で特に注意したいのが、ポンプ流量を高圧のままリリーフ弁からタンクへ戻す状態です。
仮に、Δp=20 MPa
で、Q=30 L/min
がほぼ全量リリーフしているなら、Ploss=10 kW
です。
理想化すれば、この油圧動力の大部分が損失として熱へ変換されます。
つまり「圧力は高いがアクチュエータが仕事をしていない」という状態でも、流量が高圧部を通過していれば大きな発熱源になり得ます。
このため油圧動力計算はポンプ・モータ容量の計算だけでなく、回路のエネルギーロスを見つける計算としても利用できます。
圧力だけ高くても動力は発生しない
油圧動力式は、Ph=ΔpQ
です。
したがって流量が、Q=0
なら、Ph=0
です。
圧力が存在するだけでは、流体によって連続的に伝達される動力はありません。
反対に、流量が大きくても圧力差がほぼゼロなら、Ph≈0
です。
この関係から、
- 圧力は負荷に関係する
- 流量は速度に関係する
- 圧力×流量が動力になる
という油圧回路の基本構造が見えてきます。
Pythonで計算する
基本関数は非常に小さくできます。
def hydraulic_power_kw(
pressure_mpa: float,
flow_l_min: float,
) -> float:
if pressure_mpa < 0:
raise ValueError("圧力差は0以上である必要があります")
if flow_l_min < 0:
raise ValueError("流量は0以上である必要があります")
return pressure_mpa * flow_l_min / 60.0
使用例は次の通りです。
power = hydraulic_power_kw(
pressure_mpa=20.0,
flow_l_min=30.0,
)
print(power)
結果は、
10.0
です。
効率を別関数にする
油圧動力とポンプ軸入力は別概念なので、一つの関数へ押し込まない方が再利用しやすくなります。
def required_shaft_power_kw(
hydraulic_power_kw: float,
overall_efficiency: float,
) -> float:
if hydraulic_power_kw < 0:
raise ValueError("油圧動力は0以上である必要があります")
if not 0 < overall_efficiency <= 1:
raise ValueError("効率は0より大きく1以下で指定してください")
return hydraulic_power_kw / overall_efficiency
このようにすれば、
圧力・流量
↓
油圧動力
↓
ポンプ効率
↓
軸入力
↓
モータ効率
↓
電気入力
と各計算を独立してテストできます。
データ化すると何ができるか
将来、設計計算をWebツールやAPIへ発展させる場合は、結果だけではなく入力条件と計算段階を保存すると便利です。
{
"pressure_difference": {
"value": 20.0,
"unit": "MPa"
},
"flow_rate": {
"value": 30.0,
"unit": "L/min"
},
"hydraulic_power": {
"value": 10.0,
"unit": "kW",
"model": "delta_p_times_q"
}
}
さらに、
{
"efficiency": {
"pump_overall": null,
"motor": null
}
}
を追加すれば、メーカー性能値が得られた時点で軸入力や電気入力まで計算できます。
重要なのは、確認していない効率値を勝手に埋めないことです。
圧力損失計算とも接続できる
これまでに求めた直管や継手の圧力損失を、Δploss
とすれば、Ploss=60ΔplossQ
によって、その損失をkWへ変換できます。
つまり、
流量
↓
流速
↓
Reynolds数
↓
摩擦係数
↓
直管・局所圧力損失
↓
損失動力
↓
発熱量評価
という一連の計算チェーンが成立します。
圧力損失を「MPa」という結果だけで終わらせず、「何kWを熱として失っているか」まで変換すると、油圧ユニットの効率や冷却設計へ接続しやすくなります。
まとめ
油圧動力の基本式は、Ph=ΔpQ
です。
MPa、L/min、kWを使う場合は、Ph[kW]=60Δp[MPa]Q[L/min]
となります。
重要なのは、この値をモータ容量そのものと考えないことです。
ポンプ軸入力にはポンプ効率、電気入力にはさらに電動機効率が関係します。
また同じ式は、Ploss=60ΔplossQ
としてバルブや配管の損失動力にも利用できます。
したがって油圧動力は、
ポンプ容量計算、アクチュエータ動力、圧力損失、発熱、冷却設計
をつなぐ中心的な計算量です。
圧力と流量を単独で見るのではなく、その積をエネルギーフローとして扱うことで、油圧回路全体をより構造的に評価できます。
参考情報
油圧動力 PQ/60、ポンプ軸入力、効率、バルブ損失動力については油研工業の公式Data Sheetを参照しました。
ポンプ・油圧モータについて、圧力差・流量・油圧動力・総合効率の関係は東京計器のTechnical Informationでも確認できます。
barとL/minによる P=ΔpQ/600 の表現はParker公式技術資料でも確認できます。

