油圧モータを選定するとき、トルクと並んで重要なのが回転数です。
油圧モータは、供給された作動油の流量によって回転します。そのため基本的には、
流量が増えれば回転数は上がり、押しのけ容積が大きくなれば回転数は下がる
という関係になります。
ただし、実際の油圧モータでは内部漏れがあるため、単純に「流量÷押しのけ容積」で計算した値がそのまま実回転数になるわけではありません。そこで考慮するのが容積効率です。
この記事では、油圧モータの回転数を流量、押しのけ容積、容積効率から求める方法を、単位変換から計算例まで順番に整理します。
油圧モータの回転数を決める基本関係
油圧モータでは、1回転するために一定量の作動油が必要です。
この1回転あたりの油量を**押しのけ容積(displacement)**と呼びます。
たとえば押しのけ容積が、
のモータなら、理論上は1回転につき100 cm³の油を必要とします。
ここへ毎分40 Lの作動油を供給した場合を考えてみます。
40 L/minは、
です。
したがって理論回転数は、
となります。
つまり、
です。
この関係が油圧モータの回転数計算の基本です。
理論回転数の計算式
流量を 、押しのけ容積を 、理論回転数を とすると、
で求められます。
ここで、
- :理論回転数 [rpm]
- :モータ入口流量 [L/min]
- :押しのけ容積 [cm³/rev]
です。
係数1000が入るのは、
だからです。
単位を追ってみると、
となり、最終的にrpmになります。
設計計算では、このように式だけでなく単位が消えていく過程を確認すると、換算ミスを見つけやすくなります。
実際の回転数には容積効率を考慮する
実際の油圧モータでは、供給された油のすべてが軸の回転に使われるわけではありません。
内部のクリアランスなどを通って漏れる油があるためです。
この影響を表すのが容積効率 ηv\eta_v です。
Parker Hannifinの油圧モータ資料では、モータに必要な流量を次の関係で示しています。
この式を回転数 について変形すると、
となります。
したがって実回転数を求める基本式は、
です。
容積効率が1より小さいため、実回転数は理論回転数より低くなります。
Danfossも、容積効率を供給油量のうち出力軸の回転へ変換される割合として説明しており、内部漏れが増えると回転数が低下することを示しています。
計算例|40 L/minで100 cm³/revのモータを回す
次の条件を考えます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 流量 | 40 L/min |
| 押しのけ容積 | 100 cm³/rev |
| 容積効率 | 0.92 |
まず理論回転数を求めます。
したがって、
です。
次に容積効率を考慮します。
よって、
となります。
理論上は400 rpmですが、容積効率を92%とした場合の計算上の実回転数は368 rpmです。
差は、
です。
「ポンプから40 L/min出ているから400 rpmになる」と考えるのではなく、実機では内部漏れを考慮する必要があります。
必要な流量を回転数から逆算する
実務では、
「このモータを500 rpmで回したい。何L/min必要か」
という逆方向の計算も頻繁に使います。
先ほどの式、
を について変形すると、
となります。
押しのけ容積100 cm³/rev、目標回転数500 rpm、容積効率0.92とすると、
なので、
です。
つまり、この条件で500 rpmを狙うなら、計算上は約54.3 L/minの流量が必要になります。
この逆算式は、モータだけでなくポンプ流量や流量制御弁の必要能力を検討する入口にもなります。
流量と回転数は基本的に比例する
押しのけ容積と容積効率を一定とすれば、
なので、
です。
つまり流量と回転数は比例関係になります。
先ほどと同じ100 cm³/rev、容積効率0.92のモータなら、
| 流量 | 計算回転数 |
|---|---|
| 10 L/min | 92 rpm |
| 20 L/min | 184 rpm |
| 30 L/min | 276 rpm |
| 40 L/min | 368 rpm |
| 50 L/min | 460 rpm |
となります。
この関係から、流量制御によって油圧モータの回転速度を調整できる理由も理解できます。
ただし実機では、容積効率そのものが一定ではありません。そのため実際の流量―回転数特性が完全な直線になるとは限りません。
押しのけ容積が大きいほど回転数は低くなる
流量と容積効率が一定なら、
です。
つまり押しのけ容積が大きくなるほど、同じ流量で得られる回転数は低くなります。
40 L/min、容積効率0.92として比較すると、
| 押しのけ容積 | 計算回転数 |
|---|---|
| 50 cm³/rev | 736 rpm |
| 100 cm³/rev | 368 rpm |
| 200 cm³/rev | 184 rpm |
となります。
油圧モータの選定では、回転数だけでなくトルクも同時に考える必要があります。
押しのけ容積を大きくすると同じ流量での回転数は低くなりますが、同じ差圧条件なら理論トルクは大きくなる方向に働きます。
したがって、
流量 → 回転速度
差圧 → トルク
という基本関係を押さえたうえで、押しのけ容積を両者を結ぶ主要設計変数として扱うと、油圧モータの選定を整理しやすくなります。
ポンプとモータでは容積効率の入り方が違う
ここは計算ミスが起きやすいポイントです。
ポンプでは、理論的に押し出すはずの流量から内部漏れによって実吐出流量が減ります。
一方、モータでは、供給された流量の一部が内部漏れとなるため、実際の軸回転に使われる油量が減ります。
そのため、代表的な式は次のようになります。
ポンプ:
モータ:
Parker Hannifinの資料でも、ポンプとモータについてこの違いを分けて記載しています。
式を丸暗記するより、
内部漏れが結果をどちら側へ変化させるのか
を考えると判断しやすくなります。
容積効率を固定値だと思わない
計算例では容積効率を0.92としましたが、これはあくまで計算方法を説明するために置いた仮定値です。
実際の容積効率は、モータ形式だけでなく、
- 回転数
- 差圧
- 作動油粘度
- 油温
- 内部クリアランス
- 運転状態
などの影響を受けます。
Danfossの資料でも、負荷、つまりモータ差圧が増えると漏れが増加し、回転速度が低下すると説明されています。
したがって実機選定では、任意の効率値だけで最終判断せず、対象モータのメーカー性能曲線や技術資料を確認することが重要です。
計算上の回転数だけでモータを選定しない
式から500 rpmと計算できたからといって、そのモータを500 rpmで使用できるとは限りません。
実際のモータにはメーカーが定める運転範囲があります。
特に確認したいのは、
- 許容連続回転数
- 最高回転数
- 最低安定回転数
- 連続使用可能な差圧
- 間欠圧力
- ピーク圧力
- 必要入口圧力
- ケース圧力
- 作動油条件
などです。
計算式は必要な動作点を求めるものであり、製品仕様はその動作点を実機が許容できるか確認するものです。
この2つを分けて考える必要があります。
Pythonで計算できる形にする
回転数計算は入力と出力が明確なので、そのままコード化できます。
def hydraulic_motor_speed(
flow_l_min: float,
displacement_cm3_rev: float,
volumetric_efficiency: float = 1.0,
) -> float:
if flow_l_min < 0:
raise ValueError("flow_l_min must be >= 0")
if displacement_cm3_rev <= 0:
raise ValueError("displacement_cm3_rev must be > 0")
if not 0 < volumetric_efficiency <= 1:
raise ValueError("volumetric_efficiency must be in (0, 1]")
return (
1000
* flow_l_min
* volumetric_efficiency
/ displacement_cm3_rev
)
rpm = hydraulic_motor_speed(
flow_l_min=40,
displacement_cm3_rev=100,
volumetric_efficiency=0.92,
)
print(rpm)
出力は、
368.0
です。
さらに逆算関数を用意すれば、
def hydraulic_motor_required_flow(
speed_rpm: float,
displacement_cm3_rev: float,
volumetric_efficiency: float = 1.0,
) -> float:
if speed_rpm < 0:
raise ValueError("speed_rpm must be >= 0")
if displacement_cm3_rev <= 0:
raise ValueError("displacement_cm3_rev must be > 0")
if not 0 < volumetric_efficiency <= 1:
raise ValueError("volumetric_efficiency must be in (0, 1]")
return (
displacement_cm3_rev
* speed_rpm
/ (1000 * volumetric_efficiency)
)
として、目標回転数から必要流量を計算できます。
設計計算をデータ化すると何ができるか
この計算は、単独の電卓で終わらせるより、設計データとして構造化すると利用範囲が広がります。
最低限必要な入力は、
- モータ押しのけ容積
- 供給流量
- 容積効率
です。
そこから、
- 理論回転数
- 効率考慮後の回転数
- 目標回転数に必要な流量
を自動計算できます。
さらに差圧と機械効率を追加すればトルクを計算でき、全効率を扱えば油圧入力と機械出力の関係まで拡張できます。
最終的には、
ポンプ流量 → モータ回転数 → モータトルク → 軸出力
という一連の設計計算を同じデータモデル上で扱えるようになります。
これは油圧回路の機器選定やWeb計算ツールへ展開しやすい構造です。
まとめ
油圧モータの回転数は、流量と押しのけ容積から求められます。
理論回転数は、
です。
容積効率を考慮した回転数は、
となります。
逆に、目標回転数から必要流量を求める場合は、
です。
重要なのは、流量が回転速度を決める基本量であり、押しのけ容積が流量と回転数の関係を決めるという点です。
ただし、容積効率は運転条件によって変化します。また、計算上の回転数がメーカーの許容運転範囲に入っているとは限りません。
概算では式を使い、実機選定ではメーカーの性能データと照合する。
この二段階で考えることで、油圧モータの回転数計算を実際の設計判断へつなげられます。

