油圧モータの性能を評価するとき、トルクと回転数だけでは十分ではありません。
油圧モータへ何kWの油圧動力を供給し、そのうち何kWを軸から取り出せるのか。この関係を表すのが全効率です。
基本的なエネルギーの流れは次のようになります。
圧力 × 流量
↓
油圧入力動力
↓
油圧モータ
↓
トルク × 回転数
↓
機械出力
入力と出力の差は、内部漏れ、摩擦、流路での圧力損失などによって失われます。これらの損失は最終的に、その多くが熱として作動油やモータへ移ります。
この記事では、
- 差圧と流量から油圧入力を求める
- トルクと回転数から軸出力を求める
- 入力と出力から全効率を求める
- 損失動力を発熱検討へつなげる
- Pythonで再利用可能な計算ロジックにする
という順番で整理します。
油圧モータの全効率とは
油圧モータの全効率を 、油圧入力を 、機械出力を とすると、
です。
効率を百分率で表示する場合は、
とします。
たとえば、モータへ20 kWの油圧動力を供給し、軸から16 kWを取り出せるなら、
したがって全効率は、
です。
残りの4 kWは有効な軸出力になっていません。
全効率は2種類の効率から構成される
油圧モータでは、損失を大きく次の2種類に分けて考えます。
- 内部漏れによる容積損失
- 摩擦や流路抵抗による油圧・機械損失
これらに対応するのが、
- 容積効率
- 油圧機械効率
です。
Danfossの技術資料では、油圧モータの全効率を次の積として定義しています。
容積効率は、供給油量のうち実際の軸回転に変換された割合を表します。
油圧機械効率は、加えられた差圧のうち、実際の軸トルクへ変換された割合を表します。
たとえば、
なら、
です。
したがって全効率は、
となります。
ただし、効率はモータ固有の固定値ではありません。回転数、差圧、作動油粘度、油温などによって変化します。
油圧入力は差圧と流量から求める
油圧動力のSI単位による基本式は、
です。
ここで、
- :油圧入力動力
- :モータ入口と出口の差圧
- :モータ入口流量
です。
モータ入口圧力を 、出口圧力を とすると、
です。
入口圧力そのものではなく、モータ前後の差圧を使う点が重要です。
barとL/minからkWを求める
実務では、圧力にbar、流量にL/minを使用することがあります。
単位換算すると、
なので、
となります。
したがって実務式は、
です。
圧力をMPaで扱う場合は、
となります。
軸出力はトルクと回転数から求める
回転機械の出力は、
です。
ここで、
- :軸トルク
- :角速度
です。
回転数 をrpmで与えると、角速度は、
なので、
となります。
kWへ変換すると、
です。
近似定数を使えば、
とも書けます。
計算例|200 bar・80 L/minの油圧モータ
次の動作点を考えます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| モータ差圧 | 200 bar |
| 入口流量 | 80 L/min |
| 軸トルク | 460 N·m |
| 回転数 | 460 rpm |
このトルクと回転数は、Danfossの技術資料で油圧機械効率の説明に使用されている動作点を参考にしています。
油圧入力を求める
したがって、
です。
軸出力を求める
したがって、
です。
全効率を求める
よって、
百分率では、
です。
損失動力を求める
損失動力 は、油圧入力と機械出力の差です。
先ほどの例では、
なので、
です。
この4.51 kWは、モータから取り出せなかった動力です。
エネルギー収支上、その多くは、
- 作動油の温度上昇
- モータ本体の温度上昇
- 周囲への放熱
- 軸受や摺動部の摩擦熱
などへ変わります。
したがって損失動力は、オイルクーラやタンクの放熱能力を検討するための入口になります。
ただし、モータ単体の損失動力を、そのまま油圧装置全体の必要冷却能力としてはいけません。装置全体では、ポンプ、バルブ、配管、フィルタ、絞りなどの損失も加わります。
全効率が分かっている場合の計算
メーカー資料などから全効率が分かっている場合は、油圧入力から軸出力を概算できます。
損失動力は、
です。
たとえば、
- 差圧:18 MPa
- 流量:40 L/min
- 全効率:0.84
とします。
油圧入力は、
です。
軸出力は、
となります。
損失動力は、
です。
効率は運転条件によって変化する
計算例では効率を一つの値として扱いましたが、実際の効率は一定ではありません。
Danfossの油圧モータ資料では、トルクと回転数の座標上に、
- 一定差圧
- 一定流量
- 一定出力
- 一定全効率
- 連続運転領域
- 間欠運転領域
を重ねた機能線図が示されています。
同じモータでも動作点が変われば、全効率も変わります。
特に効率へ影響する条件には、
- 差圧
- 回転数
- 流量
- 作動油粘度
- 油温
- 内部クリアランス
- 出口側背圧
- 起動時か定常運転時か
- 摩耗状態
などがあります。
そのため、任意に決めた効率値だけで最終選定せず、メーカーの性能曲線上で必要な動作点を確認します。
入口圧力ではなく差圧を使う
計算ミスが起こりやすいのが、入口圧力だけで油圧入力を計算するケースです。
たとえば、
- 入口圧力:220 bar
- 出口圧力:20 bar
なら、モータ差圧は、
です。
220 barをそのまま使用すると、モータへ実際に与えられる差圧を過大評価します。
特に閉回路や戻り側に背圧がある回路では、出口圧力を無視できません。
簡易式が成立する前提
実務式、
は、モータの入口流量と出口流量を同一とみなす簡易的な計算です。
ケースドレンを持つモータでは、入口流量の一部がドレンへ流れるため、厳密には入口・出口・ケースドレンの各ポートにおける圧力と流量を考える必要があります。
通常の機器選定では、メーカーが示す差圧、入口流量、出力トルク、回転数、効率線図を使用するのが現実的です。
一方、試験設備で詳細なエネルギー収支を評価する場合は、
- 入口圧力と入口流量
- 出口圧力と出口流量
- ケース圧力とドレン流量
- 軸トルク
- 軸回転数
- 作動油温度
を個別に測定します。
理論値と実測値を混在させない
全効率を計算するときは、入力と出力を同じ動作点でそろえる必要があります。
避けたい組み合わせは、たとえば次のようなものです。
カタログ最大差圧
×
別条件の定格流量
×
別条件で測定されたトルク
×
最高回転数
これらを組み合わせても、実在する一つの動作点にはなりません。
正しくは、
同じ油温
同じ粘度
同じ差圧
同じ流量
同じ回転数
同じ測定条件
でそろえます。
また、効率を考慮済みの実トルクと実回転数から軸出力を計算したあと、さらに全効率を掛けると、損失を二重に計上してしまいます。
Pythonで計算する
全効率と損失動力は、次のように関数化できます。
import math
def hydraulic_motor_efficiency(
inlet_pressure_bar: float,
outlet_pressure_bar: float,
flow_l_min: float,
torque_nm: float,
speed_rpm: float,
) -> dict[str, float]:
"""油圧モータの入力・出力・全効率・損失動力を計算する。"""
if inlet_pressure_bar < outlet_pressure_bar:
raise ValueError(
"inlet_pressure_bar must be >= outlet_pressure_bar"
)
if flow_l_min < 0:
raise ValueError("flow_l_min must be >= 0")
if torque_nm < 0:
raise ValueError("torque_nm must be >= 0")
if speed_rpm < 0:
raise ValueError("speed_rpm must be >= 0")
delta_pressure_bar = (
inlet_pressure_bar - outlet_pressure_bar
)
hydraulic_input_kw = (
delta_pressure_bar * flow_l_min / 600
)
shaft_output_kw = (
2 * math.pi * torque_nm * speed_rpm / 60000
)
if hydraulic_input_kw == 0:
total_efficiency = 0.0
else:
total_efficiency = (
shaft_output_kw / hydraulic_input_kw
)
power_loss_kw = (
hydraulic_input_kw - shaft_output_kw
)
return {
"delta_pressure_bar": delta_pressure_bar,
"hydraulic_input_kw": hydraulic_input_kw,
"shaft_output_kw": shaft_output_kw,
"total_efficiency": total_efficiency,
"total_efficiency_percent": (
total_efficiency * 100
),
"power_loss_kw": power_loss_kw,
}
result = hydraulic_motor_efficiency(
inlet_pressure_bar=220,
outlet_pressure_bar=20,
flow_l_min=80,
torque_nm=460,
speed_rpm=460,
)
for key, value in result.items():
print(f"{key}: {value:.3f}")
主な出力は次のようになります。
delta_pressure_bar: 200.000
hydraulic_input_kw: 26.667
shaft_output_kw: 22.159
total_efficiency: 0.831
total_efficiency_percent: 83.095
power_loss_kw: 4.508
実装では、計算結果が、
となった場合に警告を出すと、単位ミスや測定値の組み合わせ違いを検出できます。
計算データを構造化する
自動計算や機器選定へ発展させるなら、入力条件と計算結果を分けて保存します。
{
"motor_operating_point": {
"inlet_pressure_bar": 220.0,
"outlet_pressure_bar": 20.0,
"flow_l_min": 80.0,
"torque_nm": 460.0,
"speed_rpm": 460.0
},
"calculated_result": {
"delta_pressure_bar": 200.0,
"hydraulic_input_kw": 26.667,
"shaft_output_kw": 22.159,
"total_efficiency": 0.831,
"power_loss_kw": 4.508
}
}
この構造なら、
- Python計算
- Excel設計表
- Web計算ツール
- モータ性能データベース
- 動作点比較
- 発熱量集計
- オイルクーラ選定
- AIによる設計チェック
へ同じデータを展開できます。
さらにメーカー性能曲線から取得した効率データを追加すれば、差圧と回転数に応じて効率を補間する計算にも発展できます。
実務で確認したい項目
全効率の計算値だけで油圧モータを選定することはできません。
最低限、次の項目も確認します。
- 連続差圧
- 間欠差圧
- ピーク圧力
- 連続トルク
- 起動トルク
- 最高回転数
- 最低安定回転数
- 出口側許容圧力
- ケース圧力
- ケースドレン条件
- 作動油粘度
- 作動油温度
- ラジアル荷重とアキシャル荷重
- 連続運転領域
- 熱的限界
計算式は必要動作点を定義するためのものです。実機がその動作点を許容できるかは、メーカーの性能データで確認します。
まとめ
油圧モータの全効率は、油圧入力と機械出力の比で求められます。
油圧入力は、
軸出力は、
です。
損失動力は、
となります。
また、全効率は、
として、容積効率と油圧機械効率の積でも表せます。
重要なのは、圧力・流量・トルク・回転数を一つの動作点として扱うことです。
差圧 × 流量
↓
油圧入力
↓
全効率
↓
トルク × 回転数
↓
軸出力
↓
入力との差
↓
損失・発熱
この計算系を構造化しておけば、油圧モータの選定だけでなく、装置全体の動力収支、発熱量、冷却能力の検討へ発展させられます。

