油圧装置で消費された動力のうち、シリンダやモータの有効仕事にならなかった部分は、最終的にその多くが熱へ変わります。
発熱源は油圧モータだけではありません。
- ポンプの容積損失と機械損失
- リリーフ弁からタンクへ戻る流れ
- 流量制御弁や絞りでの圧力降下
- 配管、継手、フィルタの圧力損失
- シリンダやモータ内部の摩擦
- 戻り側の背圧
などが装置全体の油温上昇に関係します。
Danfossも、油圧システムで失われた機械・油圧エネルギーが熱へ変換されると説明しています。また、Bosch Rexrothは、作動油の役割に動力伝達や潤滑だけでなく熱の放散も挙げています。
この記事では、発熱量を次の3つの方法で整理します。
動力収支から計算
圧力損失と流量から計算
温度上昇の実測から推定
さらに、連続運転ではない装置について、運転サイクルから平均発熱量を求める方法まで解説します。
発熱量の基本は入力と有効出力の差
油圧装置へ入る動力を 、負荷で有効に使われる動力を とすると、損失動力は、
です。
定常状態では、この損失動力が発熱量を見積もる基本値になります。
たとえば、装置へ15 kWが入力され、そのうち10.5 kWが有効仕事になっているなら、
です。
したがって、発熱量は概算で、
となります。
ここで「入力」をどこで測るかによって、計算範囲が変わります。
電動機の電力入力と負荷の機械出力を比較すれば、電動機、ポンプ、バルブ、配管、アクチュエータを含む広い範囲の損失を扱えます。
一方、ポンプ吐出口の油圧動力とアクチュエータ出力を比較した場合、電動機とポンプ内部の損失は含まれません。
測定境界を決める
↓
その境界を通過する入力を求める
↓
同じ境界から出る有効出力を求める
↓
差を損失動力とする
計算値には、どこからどこまでを含むのか明記することが重要です。
全効率から発熱量を求める
入力動力と装置の全効率が分かっている場合、有効出力は、
です。
したがって、損失動力は、
となります。
入力動力が20 kW、全効率が80%なら、
です。
ただし、効率を根拠なく固定してはいけません。効率は圧力、流量、回転数、油温、粘度、運転状態などで変化します。
メーカーの性能データまたは実測値がない場合、この方法は初期検討の概算として扱います。
圧力損失と流量から発熱量を求める
バルブや配管など、局所的な発熱源は圧力損失と流量から計算できます。
SI単位では、
です。
圧力損失をMPa、流量をL/min、損失動力をkWで表すと、
となります。
barを使用する場合は、
です。
絞り弁での発熱例
流量30 L/minが、圧力差4 MPaの絞りを通過するとします。
したがって、
です。
この絞り部分だけで、約2 kWの油圧動力が失われます。
リリーフ弁での発熱例
リリーフ弁が12 MPaで作動し、30 L/minがタンクへ戻っているとします。タンク側圧力を無視できる条件なら、
です。
負荷が仕事をしていなくても、ポンプ流量が高圧のままリリーフ弁を通過すれば、大きな発熱源になります。
ただし、実際には弁前後の圧力差を使います。戻り側に背圧がある場合、入口圧力だけを式へ入れてはいけません。
複数の損失を合計する
装置全体の発熱量を部品ごとに積み上げる場合は、
とします。
たとえば、
| 発熱源 | 損失動力 |
|---|---|
| ポンプ | 1.2 kW |
| 流量制御弁 | 2.0 kW |
| 配管・フィルタ | 0.5 kW |
| アクチュエータ | 0.8 kW |
なら、
なので、
です。
ただし、同じ損失を二重に計上しないよう注意します。
装置全体について入力と有効出力の差をすでに求めているなら、その値には内部の各損失が含まれます。そこへ部品別損失を追加すると重複します。
運転サイクルから平均発熱量を求める
実際の機械は、最大負荷で連続運転するとは限りません。
加圧、保持、戻り、待機などで発熱量が変化する場合、冷却負荷の検討には時間平均を使います。
各工程の発熱量を 、継続時間を とすると、サイクル平均発熱量は、
です。
60秒サイクルの計算例
次の運転サイクルを考えます。
| 工程 | 発熱量 | 時間 |
|---|---|---|
| 加圧・作動 | 4.5 kW | 20 s |
| 保持・低負荷循環 | 2.4 kW | 25 s |
| リリーフ作動 | 6.0 kW | 5 s |
| 停止 | 0 kW | 10 s |
1サイクルで発生する熱エネルギーは、
なので、
です。
平均発熱量は、
したがって、
となります。
ピーク発熱量は6.0 kWですが、サイクル平均は3.0 kWです。
クーラの連続冷却能力を検討する入口には平均発熱量を使います。ただし、短時間のピークによる局所温度上昇や、連続運転へ移行する異常状態も別途確認します。
温度上昇の実測から推定する
構成部品ごとの効率が分からない既設装置では、クーラを停止した状態で温度上昇を測定し、熱量を推定する方法があります。
Parkerのクーラ選定ソフトも、流体量、密度、比熱、初期温度、最終温度、測定時間から必要冷却能力を計算する方式を用意しています。
油の質量を 、比熱を 、温度上昇を 、測定時間を とすると、
です。
油量 と密度 を使う場合は、
なので、
となります。
例として、実際の作動油資料から次の値が得られたと仮定します。
| 項目 | 仮定値 |
|---|---|
| 油量 | 120 L |
| 密度 | 0.85 kg/L |
| 比熱 | 2.0 kJ/(kg·K) |
| 温度上昇 | 12 K |
| 測定時間 | 1,200 s |
油の質量は、
です。
したがって、
より、
となります。
密度と比熱は作動油の種類や温度によって異なるため、仮の固定値ではなく、使用油のメーカー資料を確認します。
また、この簡易計算にはタンク、配管、機器本体が吸収した熱や、測定中に周囲へ自然放熱された熱が十分含まれません。実測条件と計算範囲を記録し、最終選定ではメーカーの選定方法に従います。
必要冷却能力を求める
定常運転時の熱収支は、概念的に次のようになります。
ここで、
- :装置の平均発熱量
- :タンク、配管、機器から周囲への自然放熱
- :クーラが除去する熱量
です。
したがって、理論上必要なクーラ能力は、
となります。
ただし、自然放熱量を根拠なく差し引くのは危険です。測定値や検証済みモデルがなければ、初期検討では発熱量全体をクーラ負荷として扱い、メーカーへ実条件を提示する方が安全です。
Parkerの選定手順では、少なくとも次の条件を使用します。
- 流体の種類
- 流量
- 許容する最高油温
- 周囲温度
- 放散すべき熱量
- 設置高度
- 許容圧力損失
空冷クーラの能力は、油温と周囲温度の差、通過流量、油の粘度、風量などで変わります。
カタログに「冷却能力10 kW」と記載されていても、すべての運転条件で10 kWを除去できるとは限りません。性能曲線またはメーカーの選定ソフトで動作点を確認します。
冷却する前に発熱源を減らす
発熱量が大きい場合、単純にクーラを大型化する前に回路を確認します。
特に検討したいのは、
- 待機中もポンプが高圧を発生していないか
- リリーフ弁へ常時流量が流れていないか
- 必要以上の流量を絞りで捨てていないか
- フィルタや配管の圧力損失が増えていないか
- 戻り側背圧が過大でないか
- ポンプやアクチュエータの内部漏れが増えていないか
- 負荷に対して圧力設定が高すぎないか
です。
Bosch Rexrothの油圧基礎資料でも、方向制御弁の中立位置でポンプを低圧循環させる回路は、弁や配管抵抗を超える低い圧力だけを発生させるため、省エネルギーになると説明されています。
発熱源を特定
↓
不要な圧力・流量を削減
↓
残る平均発熱量を計算
↓
クーラを選定
この順番なら、冷却装置の消費電力や設置スペースも抑えられます。
Pythonで運転サイクルを計算する
工程ごとの損失動力と時間を入力し、平均発熱量を計算する関数は次のように実装できます。
from dataclasses import dataclass
@dataclass
class CyclePhase:
name: str
heat_kw: float
duration_s: float
def average_heat_load(
phases: list[CyclePhase],
) -> dict[str, float]:
if not phases:
raise ValueError("phases must not be empty")
for phase in phases:
if phase.heat_kw < 0:
raise ValueError("heat_kw must be >= 0")
if phase.duration_s <= 0:
raise ValueError("duration_s must be > 0")
cycle_time_s = sum(
phase.duration_s for phase in phases
)
heat_energy_kj = sum(
phase.heat_kw * phase.duration_s
for phase in phases
)
average_heat_kw = heat_energy_kj / cycle_time_s
peak_heat_kw = max(phase.heat_kw for phase in phases)
return {
"cycle_time_s": cycle_time_s,
"heat_energy_kj": heat_energy_kj,
"average_heat_kw": average_heat_kw,
"peak_heat_kw": peak_heat_kw,
}
phases = [
CyclePhase("working", 4.5, 20),
CyclePhase("holding", 2.4, 25),
CyclePhase("relief", 6.0, 5),
CyclePhase("stopped", 0.0, 10),
]
result = average_heat_load(phases)
for key, value in result.items():
print(f"{key}: {value:.3f}")
出力は次のようになります。
cycle_time_s: 60.000
heat_energy_kj: 180.000
average_heat_kw: 3.000
peak_heat_kw: 6.000
さらに各工程へ、
- 入口圧力
- 出口圧力
- 流量
- 入力動力
- 有効出力
- 作動油温度
- 周囲温度
を保存すれば、発熱原因の分析やクーラ選定用データへ発展させられます。
計算で起こりやすい失敗
最大電動機容量をそのまま発熱量にする。
電動機の定格容量すべてが熱になるわけではありません。実際の入力、有効出力、運転時間を区別します。
最大発熱量だけで平均冷却負荷を決める。
間欠運転では運転サイクルを考慮します。ただし、ピーク時の局所温度と異常時の連続運転は別途確認します。
入口圧力だけでバルブ損失を計算する。
必要なのはバルブ前後の圧力差です。戻り側背圧も含めます。
部品別損失と装置全体の損失を合算する。
同じ損失を二重計上する可能性があります。計算境界を統一します。
油温上昇だけで精密な発熱量が分かると考える。
金属部品の熱容量や周囲への放熱もあります。温度上昇法は測定条件をそろえた推定として使います。
カタログの最大冷却能力だけでクーラを決める。
油温、周囲温度、流量、粘度、圧力損失、設置環境を性能曲線と照合します。
まとめ
油圧装置の発熱量は、入力動力と有効出力の差から求められます。
全効率が分かる場合は、
です。
絞りや配管などの局所的な損失は、
で計算できます。
運転状態が変化する装置では、
を使い、1サイクルの平均発熱量を求めます。
重要なのは、クーラ選定だけを独立して行わないことです。
入力動力
↓
有効出力との差
↓
工程別の発熱量
↓
運転サイクル平均
↓
自然放熱と使用環境
↓
必要冷却能力
この計算を構造化すれば、油温異常の原因分析、回路改善、熱交換器選定、温度センサーによる監視、Web計算ツールへ展開できます。

